正義と微笑

numb_86のブログ

稼がなければ、その問題は解決しない

 いわゆる、ブラック企業とかサービス残業とか過労死とか、そういった話。


 最近、この手の話題が新聞やテレビでも取り上げられるようになった。ブラック企業は淘汰されるべきだし、過労死などあってはならない。残業が当たり前となり、長時間労働が恒常的になっている現状も、おかしい。これら問題に目が向けられるようになってきたのは、喜ばしいことだ。


 しかし、問題が認識されただけでは、現実は変わらない。解決に向けて動き出さなければ、いつまでもこのままだ。


 ネットでは以前からこの手の話題が盛んだが、経営陣を「悪」として糾弾する傾向が強い。悪人である経営陣が悪さをしているから、このような問題が発生してしまうのだという論調。
 それもあながち、間違いではない。意図的に労働者を使い捨てにしている経営者もいるだろうし、無自覚にパワハラを行なっている管理職もいる。なかには、過重労働を美徳とし、積極的に推進している狂気じみた経営者までいる*1
 彼らが悪いのだという指摘は、もっともだ。その姿勢や態度、価値観を、改めるべきだ。


 だが実際には、これらの労働問題は、経営陣を槍玉に挙げるだけでは解決しないと思う。
 単に「個人」が悪いのではなく、もっと構造的な問題だからだ。労働問題を生み出さざるを得ない構造があり、そこに質の悪い経営者や管理職が結びつくことで、ブラック企業が生まれる。


 具体的には、カネだ。とにかくカネがない。利益を出せていない。企業として、生産性が低すぎる。
 なぜ従業員が、安すぎる給料で、身体を壊すほど働かなければならないのか。そうしないと、利益を確保できないからだ。そうしないと事業が継続できない構造になっている。だから、従業員を馬車馬のように働かせることになる。


 具体例を示す。とある信用金庫の話だ。
 支店や部署によってバラツキはあるが、その信用金庫の労働環境は、ひどいものであった。特にとある支店では、病に倒れる者や離職者が相次いでいる。
 原因は様々だが、根本にあるのは、多すぎる業務量だ。とにかく仕事が多すぎる。だから昼食も満足に取れないし、残業も当たり前だし、繁忙期には休日出勤することもある。命令されて出社するのではなく、むしろ従業員側が頼み込んで、休日出勤の許可をもらうのだ。仕事が終わらないから。
 従業員のメンタルヘルスを改善するためには、この過大な業務量をどうにかする必要がある。


 取るべき道は二つ。全体の業務量そのものを減らすか。あるいは、人員を増やすことで、一人あたりの業務量を減らすか。
 だがどちらも、出来るはずがなかった。そんな事をすれば、事業として成り立たなくなるからだ。
 業務量を減らせば、ただでさえ少ない利益がさらに減ることになる。
 人員を増やすような資金もない。
 そうしてこの会社は今でも、現場の労働者を潰しながら事業を継続している。


 程度の差こそあれ、多くの「ブラック企業」の実態はこのような感じではないのだろうか。
 ネットでは、「悪辣な経営者が、労働者を奴隷のように扱って搾取している!」みたいな論調が多く見受けられる。だけどそれは、ややピントがずれているように思う。経営者が悪知恵を働かせて労働者を利用している、というより、そうでもしないと経営が成り立たない、というのが実態に近いのではないだろうか。
 メディアで報道されるような大企業は知らないが、多くの中小零細企業は、そんなもんだと思う。


 「残業代を払ったら倒産する(だからサービス残業は仕方ない)」みたいなことを言う経営者もいるらしいが、それも単なる言い逃れではなく、本音だろう。


 もちろん、だから残業代を払わなくていい、ということにはならない。
 カネがないことは、不当な長時間労働を正当化する理由にはならない。
 そもそも、利益を出せないような構造、体質になってしまっているのは、それを放置している経営者の責任だ。利益を生み出すような仕組みの構築、効率的な仕事の割り振り。そういったことを実行する責任が、経営陣にはある。だから、高い給料をもらい、強い権限を与えられているのだ。


 だが、ブラック企業が生まれる背景には、「カネがない」という身も蓋もない現実があるのだ。そこから目を背けていては、問題を解決することは出来ないだろう。
 残業代を支払えと命じたところで、実際に全額を支払える企業が、どれほどあるのだろう。
 一人あたりの業務量を減らせと糾弾したところで、それに応じて事業を継続できる企業が、どれほどあるのだろう。
 経営陣の意思や意識とは別に、単純にカネを出すだけの体力がないのだ。
 そんな企業は潰れてしまえばいいと言うかもしれない。それは正論なんだろうが、このご時勢、まともな雇用を用意しつつ事業を継続できるような企業がいくつもあるとは、思えない。ブラック企業を淘汰した見返りに、雇用が失われるだけではないのか?


 いわゆる「ブラック企業」の問題は、モラルや遵法意識の問題だけではなく、不景気やデフレなどと結びついた構造的な問題なのであり、ただ単に経営者を叩いていれば解決するような話ではないのだ*2

*1:ご存知、ワタミ

*2:経営者を批判するのも、もちろん大切。ワタミとか。