正義と微笑

numb_86のブログ

須田邦裕,出澤秀二『最新 起業から1年目までの会社設立の手続きと法律・税金』

 会社を創ろうとしている人、創った人、そして、会社の運営に携わることになった人にとって、非常に頼りになる一冊。
 会社を運営していくうえで必須となる法律や税務の知識が、体系的にまとめられている。


最新 起業から1年目までの会社設立の手続きと法律・税金

最新 起業から1年目までの会社設立の手続きと法律・税金


 「起業」に関する本は多いが、その多くは、自己啓発や人生論の類だと思う。起業して素敵な人生を送ろうと夢を見させるもの。脱サラを煽るもの。
 あるいは、テクニック的な話題を扱ったタイプ。起業してお金持ちになる方法を教えますという情報商材のようなものであったり、単純さを最優先して説明を省いた「早わかりスタートアップガイド!」のようなものであったり。
 会社法や税務に関する実務的な情報を網羅した入門書というのは、そんなに多くないように思う。あったとしても、「設立」にのみフォーカスが当てられ、その後の「運営」については触れられていなかったり。
 本書は、会社を運営していく上での実用的な知識を初心者向けに提供している、稀有な一冊である。


 登記の手続きや定款の作り方、取締役会や監査役会などの機関設計、株主総会の方法、各種税金の算出方法やスケジュール、日々の経理業務……。
 会社の設立・運営において必要となる知識が、網羅されている。
 それでいて、法律の解説に徹して無味乾燥になってしまうのではなく、これから実際に実務に携わっていくことになる人への目線も、忘れていない。あくまでも実用書という立場から、法律についてしっかりと解説している。このバランスが素晴らしい。
 起業を目指している人が主な対象となっているが、起業家でなくても、経理やコーポレート・ガバナンスに初めて携わることになった人にとっても、役に立つと思う。今の時期であれば、所得税源泉徴収や年末調整についての説明が、参考になる。


 本書の最も素晴らしいところは、制度や手続きについて一から説明しており、しかもそれが体系的にまとまっているところだ。
 初心者向けの入門書というのは、平易さを優先するあまり、必要な説明を省いてしまっていることが珍しくない。理由や背景を説明せず、「とにかくそういう決まりになっている」ということで済ませてしまう。説明しようとすると複雑になってしまうから仕方ないのかもしれないが、読んでる側としては釈然としない。
 本書ではそのようなことはなく、どんな手続きが、どうして必要であり、具体的に自分は何をすればいいのかが、丁寧に解説されている。


 未知の分野を学ぼうとするとき、まず最初にすべきことは、その分野の全体像や基本的な考え方を掴むことだと思う。
 そうすれば応用がきくし、より専門的な内容を調べたり学習したりする際の、取っ掛かりが出来る。
 個人の税金や社会保険もそうなんだけど、会社法や会社の税務というのは、とにかく全体像が掴みづらい。慣れれば大したことないのかもしれないけれど、初見だと、何が何だか分からない。
 だからまずはアウトラインを掴まないと、調べることすらままならない。調べるための最低限の理解や認識が不足しているのだから。


 会社法や税務の世界に入門することが出来る、それこそが、本書の最大の価値だと思う。
 あくまでも初心者向けの本だから物足りない人もいるだろうし、そもそも、専門家でもない限り、具体的なルールや数字なんて覚えていられない。
 さらにいえば、法律や税金は絶えず変わっていく。先日も、会社法の改正案が閣議決定された。
 社外取締役、義務化見送り 会社法改正案を閣議決定
 これらの動きを全てフォローするのは、現実的に考えて難しい。
 そもそも実務においては、具体的な手続きや書類の作成は、士業の皆さまに依頼するケースがほとんどだろう。


 だから、専門家を目指すのでない限り、概要や全体像を押さえることが出来れば、それで十分だと思う。
 そうすれば、必要に応じて都度調べることが出来るし、専門家とのやり取りもスムーズになる。より効率的に事務処理を行っていけるだろう。


 金融という観点から見ても、本書に記載されている知識は、持っておいて損はないと思う*1。より深く融資先を理解し、現況を把握することにつながる。

*1:というか、ちゃんとした金融パーソンなら、当たり前のように会社法や税務を理解しているんだろう。