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正義と微笑

numb_86のブログ

飯田泰之・雨宮処凛『脱貧困の経済学』

 活動家である雨宮処凛氏と、経済学者である飯田泰之氏の対談本。
 貧困問題に取り組む雨宮氏が、様々な疑問や意見を飯田氏に投げかけ、それを飯田氏が経済学者の立場から応える、というスタイルで進んでいく。
 2009年当時の格差・貧困の問題を、多岐にわたって論じている。

脱貧困の経済学 (ちくま文庫)

脱貧困の経済学 (ちくま文庫)


 対談という形式のため、非常に読みやすい。
 その反面、一つ一つの話題への掘り下げが浅い。体系立ててまとめられている訳でもなく、全体的にまとまりの悪い印象を受けてしまう。対談の内容を忠実に活字にしようとすると、こうなってしまうのかもしれないが。
 一番気になったのは、飯田氏が様々な「解説」を行うのだが、その論拠がほとんど示されていないということ。特に「こういう政策を行えば、この問題は解決します。こんな素晴らしいことが起きます」と様々な提言を行っているのだが、なぜそうなのかが、ほとんど説明されていない。賛成とか反対とか以前に、判断のしようがない。
 読みやすさや分かりやすさを優先した結果なのかもしれないが、かなり不満が残った。


 既述のように、読みやすさは申し分ない。予備知識がなくても簡単に読み進められる。また、話題の範囲も広く、貧困に関わるトピックには概ね触れているように思う。だからこそ、まとまりが悪く、一つ一つの扱いが浅いものになってしまうのだが。


 貧困や格差に関心がある人が、「経済学っぽいもの」に触れるための手引き。そう捉えれば、悪くはないのかもしれない。


 以下、本書で取り上げられている話題のうち、私が関心を持っているものを抜粋。

  • よかれと思って規制を強化すると、却って貧困がひどくなる
    • いわゆる新自由主義的な考え方や政策が、貧困や格差の原因。そういう見方は根強くあり、雨宮氏もその考えのもと、規制の強化を主張している。だがそうすると、ますます貧困がひどくなるという現実がある。例えば、「非正規雇用」は格差の代名詞のような存在になっているが、それをいたずらに禁止したり好待遇を強制したりすれば、企業は雇用を控え、「非正規雇用にすらなれない人」が増える。最低賃金も同様。最低賃金を高くし過ぎると、企業は雇用を減らす方向に動く。効率化や機械化を進めたり、海外に移転したり。ワープアの人たちが、今度は無職になってしまう。
      • もちろん、現状維持が好ましい訳ではないが、単に何かを禁止したり強要したりすればいいという訳ではない、という話。
  • 為替の影響
    • 円高になればなるほど、人件費が高くつき、製造業は海外に移転してしまう。そうでなくても、グローバル化は、雇用の海外流出をもたらす。
      • 為替変動やグローバル化は、もはや人為的にどうにか出来るレベルではない。当事者にはどうにもならない要素で、雇用という生活の基盤が脅かされる現実。「全部、経営者や財界が悪いんだ」で片付けばよかったのだが、実際は、コントロール不能な様々な要因により、貧困がもたらされている。
  • 労働者に求められる能力の高度化
    • 経済や産業が進展したことで、労働者には非常に高い能力が求められるようになった。対人能力や要領の良さ、創造性、主体性、情報技術や英会話、など。昔のような単純作業の仕事は激減している。だが、全員が高いスキルを有している訳ではない。素養の問題や、成長する機会に恵まれなかった、など。単純作業の労働を望んでいる人は多い。だが、そういう仕事は減ってきている。そのため、どうしても仕事に就けない人が出てくる。あるいは、安く買い叩かれて非常に低い待遇で雇われることになる。
      • しかし単純労働に従事する人たちは、一定数は社会に不可欠。彼らがいることで、社会は成り立っている。彼らが劣悪な待遇を受けているのはおかしい。雨宮氏はそう主張しており、私もそう思う。だが需給のバランスが崩れてしまっている以上、どうしても賃金は下がる。必然的に。景気が悪い、というのも大きな要因。実際、ここ最近は一部の業界では、時給が高止まりし、それでも人が集まらないという話も聞く。
  • 労働補助という考え方
    • 労働してお金を稼ぐと、さらに補助金をもらえるというシステム。例えば時給800円で働くと、さらに国や自治体から200円の補助金がもらえる。こうすることで、最低賃金を上げることなく、収入を増やせる。また、働ければ働くほど補助金をもらえるのだから、就労や労働を促す効果もある。現在の生活保護制度では、働けば働くほど損する仕組みになってしまっている。これでは、就労意欲は削がれるばかり。
  • 住宅支援
    • 身体的にも、精神的にも、社会的にも、家は生活の基盤。にも関わらず、そこに対する支援が弱い。
  • 世間が最強
    • 他の本にも書かれていたのだが、日本人は「弱者に対して支援すべきだ」と考える人の割合が、非常に低い。弱者や貧困層に対して冷たい。しかし同時に、「弱肉強食」や「自由競争」にも否定的。この奇妙な心性に対し本書では、「世間」にその理由を求めている。「世間」の内側にいる人たちは競い合うべきではない。しかしそこから外れた人たちは、どうなっても知らない。落ちぶれても自己責任。そういう考え方。これはかなり、鋭い指摘だと思う。
      • 生活保護に対する態度なども、これで説明がつく。「世間に恥じない生き方」こそが何よりも大切で、そこから外れた人たちは罪人として扱う。
  • 格差と結婚
    • 貧困は当然、少子化をもたらす。そして少子化が進めば、社会保障は弱体化し、ますます貧困層や若い世代にとって生きづらい社会になる。また、格差が長期間放置されると、格差の再生産が行われてしまう。現実的に考えて、貧困層の家庭で育った子供は、それだけでハンディを抱えながら生きていくことになる。さらに進むと、階層の固定化という現象が起きてしまう。それは、社会の連帯感や信頼感を大きく損なうだろう。
      • 本書では触れられていないが、少子化による人口減は、労働力の減少や、購買力の減少をもたらす。経済の縮小は避けられないだろう。これに抗うためには、一人あたりの生産性の向上などに着手しないといけない。
        • 個人的には結婚願望は無いのだが、少子化は本当にどうしたものかと思う。年寄りばかりになったら、様々な面で、社会は成り立たなくなるだろう。私自身、そんな社会で暮らしたいとは思えない。
  • 成長なき効率化が、失業をもたらす
    • 人や企業の生産性は、放っておいても向上していく。機械化の促進のみならず、ノウハウの蓄積や、熟練、新しい手法の開発、など。必然的に、効率性は高まっていく。効率性の高まり以上に需要が伸びれば(=経済成長すれば)問題ない。だが、効率は高まるのに需要が伸びないのであれば、「不要な人」というものが生まれてしまう。そうすれば、失業や、採用の抑制が発生してしまう。逆に言えば、景気が拡大し需要が伸び続ければ、効率性が高まっても、何も問題はない。