正義と微笑

numb_86のブログ

リーナス・トーバルズ、デイビット・ダイヤモンド『それがぼくには楽しかったから』

 Linuxの開発者であるリーナス・トーバルズの自伝。
 典型的なコンピュータオタクだった少年期、後に世界中で使われていることになるOS「Linux」を作り上げるまでの日々、その後のオープンソースソフトウェアとしての成功。
 世界で最も成功しているオープンソースソフトウェアであり、最も自由なOSであるLinuxの開発記が、軽快な文章で描かれている。400頁近くあるが、あっという間に読み終えることが出来た。


それがぼくには楽しかったから (小プロ・ブックス)

それがぼくには楽しかったから (小プロ・ブックス)


 本書は技術書ではないため、エンジニア以外の人でも楽しめる内容となっている。
 とはいえ、Linuxの開発と運用が話の中核である以上、コンピュータやソフトウェアの話題は避けて通ることが出来ない。そもそも、リーナスは幼い時からコンピュータマニアであり、その自伝は当然、コンピュータにまみれたものになっている。
 コンピュータに関する、ある程度の知識は必要だと思う。分からないところがあっても(私のように)流し読みすれば大丈夫だが、コンピュータやプログラミングの用語に苦手意識を持っている人は、厳しいかもしれない。
 文章自体は、読みやすい。


 最も印象に残ったのは、Linuxは、きわめて個人的な理由によって作られ始めたということだ。
 Linuxはもともと、リーナス自身ために作られた。自分がいま持っているコンピュータに不満を持っているリーナスが、それを改良しようとしたのが、そもそものキッカケだった。あくまでも、自分が使うためのプログラムをつくり上げるのが、目的だった。当初は、OSを開発しようという意図すらなかった。自分が必要としているもの、欲しいものを作っていったら、OSの形になっていったという。


 ネットワーク上に公開した理由も、似たようなものだった。

ぼくがOSを配布した主な理由の一つは、これが単なるタワゴトではないことを----自分が何かを成し遂げたことを、証明するためだった。

 別に、強い野心があったわけでも、オープンソースに対する哲学があったわけでも、社会貢献の情熱があったわけでもない。

あのままなら、たぶん1991年の末にはやめてしまっていただろう。面白そうだと思えることは、たくさんやってしまっていた。何もかもが申し分なく動いたわけじゃないが、ソフトウェアってやつは、根本的な問題を解決してしまうと、急速に興味を失いやすくなるものだとわかった。

 と述べていることからも、それは分かる。あくまでも、自分の楽しみとして、やっていたに過ぎない。


 そのことを知れば、序文の既述の意味がよく理解できる。

革命家は、革命家として生まれるのではない。革命は、たくらんでできるものではない。革命はコントロールできるものではない。
革命は偶発的に起き……。
デイビット・ダイヤモンド

……そして時として、革命家はそこにハマッてしまう。
リーナス・トーバルズ

 本書の原題は『JUST FOR FUN』なのだが、つまり、そういうことなのだろう。


 だがLinuxのコミュニティはどんどん拡大していき、世界を席巻していくことになる。
 そうすると、「楽しいから」だけでは、運営は難しくなっていく。
 本書を読んで強く感じたもう一つのことが、プロジェクトやコミュニティを運営することの、難しさだ。


 特に、オープンな形で運営しようとすると、かなり大変だと思う。
 リーダーの素養が、非常に重要になってくる。
 phaさんがかつて、ギークハウスプロジェクトをオープンソースソフトウェアに喩えていたけれど、ギークハウスが上手くいったのも、提唱者がphaさんだったからだと思う。
 一定以上の規模になると、必ず、「エキセントリックな人」というのが混ざってくる。これはもう、一定の確率で発生することであり、防ぎようがない。防ぎたければ、敷居を高くしたり、審査を設けたりするしかないが、オープンなプロジェクトだとそれも難しい。
 こういう人物やそれによってもたらされるトラブルを絶妙にさばける人がリーダーでないと、いずれ瓦解してしまうと思う。

でもやっぱり、どこかヤバそうな人が「ギークハウスを作りたい」と言ってきたら、たぶん断ると思います。今まではそういうことはなかったですけど。
(中略)
人間が集まれば、絶対10人に1人とか20人に1人はトラブルを起こしたりする人が出るので、仕方がないんでしょう。まぁ、それはそれって感じです。一定の割合の人がうまくやっていけないことは絶対にあるから、税金みたいなものですね。


できるだけ働かずにのんびり生きる 「日本一のニートを目指す」phaさん 【第2回】 | 米田智彦「新時代の生活実験者に会ってみた!」 | 現代ビジネス [講談社]


 コミュニティの主宰やリーダーには、自分には向いてないなと感じた。なりたいとも思わないが。


 この本を読んでも「Linuxを使いたい」とは思わなかったけど、やはりウェブが好きだなとは思った。
 ウェブの根底にある、文化や哲学。
 全てがオープンで、平等で、ネットワークになっていて、人間の創造性や生産性を加速させてくれる。
 双方向で、誰でも発信できる。そして発信されたものは、誰でも見ることが出来る。
 そういうウェブの世界や理念が、好きだ。
 自分もいつか、価値のあるものを、ウェブの世界にポストしていければと思う。ウェブの世界をより豊かにすることに、貢献したい。