読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

正義と微笑

numb_86のブログ

テクノロジーによる労働の破壊

 労働の機械化が話題になるときは大抵、人間の仕事が減ることそのものが、問題だとされている。
 格差についても、その文脈で語られてきた。つまり、求人が減ることによって貧しい人が増え、その結果として格差が拡大するというロジック。自分も、そう思っていた。
 だけどそれは重要なトピックのうちの一つに過ぎず、他にも論点があるということを、下記の記事を読んで知った。

 「技術的失業」について ー テクノロジー崇拝が資本主義を不安定化する? | ASREAD


 こういう概念的な話題は、「ブラック企業が云々」みたいな具体的な話題に比べて人気がない。だけど実際は、興味がなくても確実に、自分たちの生活に影響を及ぼしている。
 労働環境に関心があるなら、マクロな議論もフォローしていくべきだと思う。対処療法だけでは、流れに抗しきれない。


 機械化についての、5つの論点。


 1.機械化による、求人の減少
 最もよく語られる論点。多くの仕事が機械によって代替されてしまい、人間の仕事が無くなる。その結果、仕事を失う人が出てきてしまう。
 機械化によって生まれる新しい仕事もあるから、長期的にはこの問題は解決される、という考え方もある。
 だが少なくとも短期的には、「機械化による失業」は生まれてしまう。


 2.労働者の二極化
 ここでいう二極化とは、仕事のある人とない人の二極化ではなく、仕事の中身の二極化。
 単に仕事の数が減るのではなく、仕事の質が、二極化していく。
 従来のホワイトカラーの仕事が減っていく一方で、クリエイティビティな仕事と、身体性が重要な仕事(肉体労働や接客業)が、増える。どちらも、機械化が難しい仕事であるという点で共通している。だが、その待遇や苛酷さは、両者で大きく異なるだろう。
 具体的には、事務職は激減するが、介護職はむしろ増えていく世界。


 3.グローバル化非正規雇用の促進
 機械化よりも、経済のグローバル化や、非正規雇用の増加が、格差や貧しさの遠因として語られることが多い。
 それはその通りかもしれないが、グローバル化非正規雇用も、機械化によって実現したという側面がある。

 インターネットなどの技術の発展によって、仕事のアウトソーシングやその管理が可能になった。現在のグローバル社会は、技術の進歩あればこそだ。
 そして、機械化のおかげで仕事の単純化や簡略化が進んだからこそ、非正規雇用が増えた。熟練労働者は不要になり、非正規雇用でもこなせる仕事が多くなった。

 管理だけ正社員が行い、現場の仕事は非正規にやらせる。それが可能になったのも、機械化によって、仕事の定型化やマニュアル化が実現したから。
 ただのハケンが、「職人」や「ベテラン」と同等のパフォーマンスを発揮できる。


 4.アイデンティティの希薄化
 前述のように仕事の定型化が進んだ結果、仕事に対する誇りを持つことが難しくなった。
 人間にとって労働は、単なる貨幣獲得の手段ではなく、精神的にも重要な意味を持つ。自己表現の一種であり、アイデンティティの一部でもある。
 機械化が進んだ世界では、仕事は定型化、細切れにされ、労働者は文字通り歯車のように働くことになる。そのような状態で精神的充足を得るのは難しい。


 5.労働者から資本家へのパワーシフト
 技術が発展すると、事業活動における技術の重要度が増す。
 どんな従業員を雇っているかより、どんなテクノロジーを有しているかが、重要になる。それこそが、企業の競争力を高める。労働集約型産業から、資本集約型産業へ。

 そうなれば当然、資本家(事業主)は、労働者との関係を軽視するようになる。質の高い労働者は、さほど重要ではなくなるのだから。「熟練労働者」にかつてほどの価値はない。労働者を育成したり、長く勤めてもらうために待遇をよくしたりする必要は、なくなる。

 当然、待遇は悪くなる。高度な技術を持っている資本家は、それを武器にして富を得ていくが、その富が労働者に分配される割合は減っていくだろう。
 技術を保有している資本家は豊かになり、保有していない労働者は豊かになれない。持てる者と持たざる者との格差が広がる。


 以上の論点のうち、特に、5.に関心を持った。
 統計によれば、企業の利益は伸び続けている一方、労働者の給与は減り続けているというが、そのこととも一致する。テクノロジーによるパワーシフトの結果、労働分配率が低下している。
 そして、トマ・ピケティの『21世紀の資本』にも重なるんじゃないかと感じた。


 『21世紀の資本』はアメリカで大きな話題になっている本で、格差の存在やその背景について実証的に描いているとのこと。
 日本語版の訳者によれば、内容は以下の通り。

本書に書かれていることはとても簡単だ。
各国で、富の格差は拡大してます、ということ。
そしてそれが今後大きく改善しそうにないということで、なぜかというと経済成長より資本の収益率のほうが高いから、資本を持っている人が経済成長以上に金持ちになっていくから。
その対策としては、世界的に資本の累進課税をしましょう、ということね。たとえば固定資産税は資産額が大きいほど税率高いようにしようぜ。
おしまい。

 以下の記事に、分かりやすい解説が載っている。

 ピケティ『21世紀の資本』:せかすから、頑張って急ぐけれど、君たちちゃんと買って読むんだろうねえ…… - 山形浩生 の「経済のトリセツ」

 ピケティ『21世紀の資本』サポートサイトその他 - 山形浩生 の「経済のトリセツ」

 NHK NEWS WEB 格差論争 ピケティ教授が語る

 ほとんど問題にされない富の話 | クローデン葉子


 人類の経済史を振り返ってみると基本的に、経済成長率よりも、資本の収益率のほうが高い。共産主義が勃興したのも、そういう背景があったから。
 だが戦後は、諸々の理由で、それが逆転していた。税制改革やら、急速な経済発展やらで。
 しかし経済成長の低下、政策の転換、などの理由で再び、資本の収益率が上回りつつある。資本の収益率が労働による所得成長率を大きく上回っており、富める者がますます富む。21世紀はそういう世界になるだろう。

 ということらしい。*1


 テクノロジーの急速な発展も、この潮流を後押しすると思う。
 不動産や金融商品を保有している人が豊かになっていく一方で、資産を持たない人はいつまでも豊かになれない。
 これと同じように、技術を持っている人間はどんどん豊かになれるが、技術を持たない人間は、安い労働力として買い叩かれ、いつまでも豊かになれない。


 資産が資産を呼び込むのとは違い、テクノロジーは、無からでも生み出せる。そういう意味では、格差の固定化にはつながらない。むしろ、持たざる者でもチャンスがある、という議論も成り立つ。「ガレージで学生仲間と起業して、イノベーションを起こして、一攫千金!」。
 だけど、そんなテクノロジーを生み出せる人間なんて、限られている。ほとんどの人間は、そんなこと出来ない。
 結局、相続などで資産を手に入れた人間と、様々な要因によりイノベーティブな才能を持つに至った人間のみが豊かになれるのであり、二極化は進むように思う。

*1:コメント欄も参照してください。ピケティが特に主張していたのは、戦後の幸福な状態は、人為的な対策によって作られたものであるということ。そして、今世紀の格差拡大は、対策を撤廃してしまったからということ。