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正義と微笑

numb_86のブログ

荒木飛呂彦『荒木飛呂彦の漫画術』

 『ジョジョの奇妙な冒険』で有名な著者が、30年以上のキャリアのなかで学んだ自身の漫画術について解説していく。
 時代を越えて愛される「王道漫画」、それを描くための方法である「黄金の道」について、描かれている。

 「漫画術」と銘打ってあるが、漫画家志望の人以外にも役に立つ部分は多い。むしろ、絵そのものについての文量は多くなく、「物語の作り方」全般について書かれている。



 独特な作風で知られる著者だが、本書で描かれていることはどれも定番であり、基本。あまり目新しいことは描かれておらず、何となく自分が思っていたことを裏付けてくれるような本。
 「自分が知っていることを教えてくれる本が、最上の本」という文章を見たことがあるが、本書はまさにそういったものだと思う。
 自分が漠然と感じていたことを、第一線で長年活躍している著者*1が裏付けてくれる。

 著者自身の作品だけでなく、『孤独のグルメ』や『テルマエ・ロマエ』などの近年の作品を例示しているので、分かりやすい。


 第一章は、導入の描き方。
 漫画、アニメ、映画、ゲーム、小説。どんな媒体であれ、出だしが大切であるということは、繰り返し言われている。どんなに素晴らしい内容でも、読み進めてもらえないと、文字通り話にならない。
 著者も、新人の頃、どうすれば編集者に原稿を読んでもらえるか非常に苦心したという。

  • 読みたくなるタイトル
  • 最初に「5W1H」を描く
  • 1ページ目で、この作品のテーマや方向性を読者に示す
  • 謎や意外性で、読者の興味を惹く


 第二章は、漫画の基本四大構造。
 導入が成功して読者に手にとってもらえたら、次は、最後まで読み進めてもらえる作品にする。そのために必要なのが、漫画の基本四大構造。
 重要な順から、キャラクター、ストーリー、世界観、テーマ。
 この4つは一つの作品のなかで調和しており、そしてこれらを統括、補助するのが、「絵」と「言葉」。
 キャラクターだけ、もしくは世界観だけでも、漫画を成立させることは出来る。ストーリーは陳腐で支離滅裂なのに、キャラクターの魅力で押し切るような作品は確かに存在するし、ひたすら世界観や雰囲気で勝負して、それで評価されている作品もある。
 だが、それには限界がある。4つのバランスを取ってこそ、名作となる。


 第三章は、キャラクター。
 魅力的なキャラクターができればそれだけで作品が成立するくらい、キャラクターが占める役割は大きい。最重要項目。

  • キャラクターをつくる際に一番大切なのは、行動の動機。何をしたい人なのか。それが明確であるから、読者は感情移入できる
    • 動機を描く際は、読者が共感・納得できる形に仕立てる。事情や背景を描くことによって。
  • 主人公は孤独である。困難を突き付けられたとき、それは、主人公だけが解決できるものでないといけない。
  • キャラクターをつくるときは、身上調査書をまず作成する。キャラクターを自分で把握するために不可欠。
  • 強さだけでなく弱さや短所を描くことで、キャラクターに立体感が生まれる。


 第四章はストーリー。
 まず困難な状況を設定し、次にキャラクターをつくる。そうして、その状況にキャラクターを放り込むことで、ストーリーは作れる。
 しっかり出来上がったキャラクター、明確な動機、起承転結、状況。それを作れれば、細かいストーリーを作らなくても、あとはキャラクターが勝手に動いていく
 ラストを盛り上げるためには、その直前に大きな困難を用意するのが定番だが、著者はその際、事前に解決策を用意しない。描きながら、主人公と一緒に考えていく。ここでも、キャラクターが動いて、状況を打破する。

  • ストーリーを中心にしてしまうと、キャラクターが動かないという弊害が発生する。
  • 起承転結が原則。
  • 主人公の状態や気持ちは、常にプラス、常に成長していく。これが物語の原則。
    • ジョジョ』第3部の「スターダスト・クルセイダース」では、旅を続けて目的地に向かって近づいていくことで、これを表現している。
      • 訪れる場所ごとに敵と戦うが、強敵だけでなく弱い敵(その代わり、狡猾であったり、特殊な能力があったり)も出していくことで、マンネリを防ぐ。
  • 説明しようとせずに説明する、ということが重要。行動や自然な会話によって、明示せずに伝える。
  • セリフは自然体が一番。このキャラクターならこの状況でどんなセリフを言うのが自然か、を意識する。


 第五章は「漫画家の必殺技」である絵について。


 第六章は、世界観。
 漫画の中には、現実の世界とは異なる「漫画の世界」が広がっており、読者は、そこに浸りたいと思って漫画を読む。だから、架空の世界なりに丁寧に描き、説得力のある世界を提示する必要がある。そうしないと、読者は興味を失ってしまうし、その世界に入りきれない。
 その一方で、世界観の説明自体をダラダラと続けてはいけない。世界観は、キャラクターの行動やセリフに盛り込んだり、主人公が直面した困難に絡めたりすることで、描くべき。


 第七章は、テーマ。
 テーマとは、その作品で何を描くか、ということ。流行りに影響されてこれがぶれてしまうと、作品が破綻してしまう。
 テーマは、「売れるから」ではなく、「自分が描きたいかどうか」で決めるべき。そうすれば、どんなテーマであっても、それを魅力的なキャラクターやストーリーに乗せれば、必ず面白い作品になる。


 最後に、実践編として、長編と後編それぞれの描き方を、近年の『ジョジョ』作品を例にして、具体的に描いている。
 個人的には特に、短編の話が参考になった。

  • まず最初に大まかなアイディアがあるが、ストーリーについては決めておらず、キャラクターと、大雑把な状況設定のみがある。そこから描き始める。ストーリーは、描きながら決まっていく。
  • 最初の数ページで、読者の興味を惹く。雰囲気を伝えたり、作品の方向性を予告したり、意表をついたりして。
    • 同時に、読者に情報を伝えつつキャラクターを表現する。そうすることで、キャラクターとストーリーが融合し、動いていく。
  • 前半は、ストーリーよりもキャラクターを強調する。
  • その後、バトルになるが、「常にプラス」の原則で、敵の強さがどんどん過酷になっていく。その困難を自力で突破することで、物語が終わる。
    • また、主人公の動機は「誰かのために戦う」だが、これはまさに少年漫画の王道。

*1:ジョジョ』の連載開始は1987年