正義と微笑

numb_86のブログ

ギリシャ危機で行われたこと、起こったこと、まとめ

 ギリシャ危機と、それに関連するヨーロッパ各国の政治状況に個人的に関心があったので、調べていた。
 まず、ギリシャで何が起きていたのか、まとめてみる。


 そもそものキッカケは、ギリシャのユーロ導入時にまで遡る。
 ユーロを導入するには条件があり、財政状態がよくない国は加盟できない。
 加盟基準を満たしていなかった当時のギリシャは、財政赤字を隠蔽してユーロに加盟した。


 時が流れ2009年。ギリシャ政権交代をキッカケに、隠蔽の事実が明るみに出る。
 その結果、信用不安が発生し、ギリシャの経済は危機に陥る。
 事態を収束させるため、欧州中央銀行(ECB) 、欧州委員会(EU) 、国際通貨基金(IMF)の三者(トロイカ)が、ギリシャへの支援に乗り出す。
 そしてその代わり、財政再建と、そのための様々な取り組みが、ギリシャに義務付けられた。
 トロイカは、緊縮策によって財政再建を行うことでこの危機を乗り越えられるとした。


 ギリシャは、支出削減や増税といった緊縮策を履行し、財政赤字の解消に成功。黒字化を果たした。
 しかしそれは、経済の縮小をもたらすことにもなった。経済の規模を示すGDPは大きく減少し、GDPに対する債務の比率は、むしろ増加した。
 失業率も上昇し、ギリシャ国民の生活は荒廃していった。


 そのような背景のもと誕生したのが、アレクシス・チプラス率いる、急進左派連合(シリザ)政権である。
 彼らはトロイカが突きつける緊縮策への反対を明言し、7月に行われた国民投票でも、緊縮策への反対派が勝利した。


 しかし、ドイツを中心としたトロイカ側は譲らず、ギリシャ経済の先行きは不透明なままになっている。


 以上が、大まかなストーリー。
 では具体的に、ギリシャはどのような財政緊縮策を行い、その結果、ギリシャ社会はどうなったのだろうか。

ギリシャ政府とEU(+IMF)がそれぞれ、この5年間に行ったこと

 2010年、ギリシャ財政再建策を示し、欧州委員会はそれを承認。その後もギリシャは、財政再建のための追加の措置を発表、歳出カットや増税を実施していく。
 以下がその主な内容。

  • 付加価値税(消費税)の増税
  • 新税の導入
  • 脱税に対する取り締まりの強化
  • 年金受給開始年齢の引き上げ
  • 年金給付額の削減
  • 公務員の賃金カット
  • 公務員の採用減
  • 国営放送の閉鎖
  • 公共事業の削減
  • 国有資産の売却

 当時、ストライキやデモが多発したが、世論調査では、緊縮策はやむ無しとする意見が多かったという。
 この他にも、専門職の最低料金等の規制の撤廃、医療制度変更など、EUやIMFが求める様々な「改革」を行っている。

参考
ギリシャの財政問題について(2010年3月)
ギリシャの財政問題について(2010年5月)
ギリシャ経済最新情報 2011年3月
ギリシャ財政危機問題-現状と今後の展望-


 EUやIMFはこれまでに2度、ギリシャに対する支援パッケージを決定している。
 まず2010年5月、EUとIMFが今後3年間で総額1100億ユーロの融資をギリシャに行うことが決定(第1次支援)。
 なお、3年を待たずに次のパッケージが決まっているが、この「3年間で総額1100億ユーロの融資」が結局どうなったのか、全額融資されたのか、などは日本語の情報だけではよく分からなかった。

参考
ギリシャの財政問題について(2010年5月)
EUがIMF協調でギリシャへの融資で合意、3年で1100億ユーロ | Reuters


 この時点でギリシャに課せられていた目標は、2009年時点で対GDP比12.7%だった財政赤字を段階的に削減し、2013年に2.0%まで減らすことだった。


 しかし2011年10月、目標の達成が絶望的であることが明らかになる。
 そこで2012年2月、新たに、EUとIMFによる総額で1300億ユーロの支援が決定(第2次支援)。
 このときは、債務をGDP比で2020年までに120.5%に削減することなどが目標とされている(先ほど記したのは「財政赤字」で、今度は債務総額)。
 この際、ギリシャに対する債権者たちは債権の一部を放棄しているようだが、具体的な中身や、先ほどの1300億ユーロにそのコストが含まれているのか、等はよく分からなかった。

参考
ユーロ圏財務相、1300億ユーロのギリシャ第2次支援策に合意 | Reuters
EUなど、ギリシャ2次支援1300億ユーロ実施へ :日本経済新聞


緊縮策がギリシャにもたらしたこと

 支援と引き換えに財政再建を義務付けられたギリシャは、その後どうなったのか。


 大幅な歳出カットに成功しており、2008年から2013年で、28%も削減している。国家予算を4分の3以下にしているわけで、相当な財政緊縮である。日本で報道されているような、「怠け者で自分勝手なギリシャ人」というのは、かなり事実とは異なるようだ。
ギリシャの歳入・歳出の推移 - 世界経済のネタ帳


 その結果、プライマリーバランス(国家予算の収支のようなもの)の黒字化に成功している。
 ギリシャの取り組みは相当なもので、IMF等が要求していた当初の目標より1年も早く、黒字化を達成した。
ギリシャの財政収支の推移 - 世界経済のネタ帳
ギリシャの基礎的財政収支、10年ぶりの黒字 - WSJ


 しかしその代償はあまりに大きく、債権者であるEUやIMFの方針に従った結果、ギリシャ経済は大きなダメージを受けた。

 まず、2008年には7.76%だった失業率*1、緊縮策の実行によって急激に悪化。2014年には26.49%になっている。4人に1人が失業中という、異常な状態となっている。
ギリシャの人口・就業者・失業率の推移 - 世界経済のネタ帳

 GDPも急激に減少。
 2008年から2014年にかけて、名目、実質ともに25%以上減少。
ギリシャのGDPの推移 - 世界経済のネタ帳


 また、上述のように過剰な緊縮策を強いられているため、社会インフラもダメージを受けている。
 例えば、国民の福利厚生に直結する医療も、影響を受けている。
 以下は、日本の外務省が発信している情報からの引用。

基本的な上下水道などの衛生状態,保健医療システム,および医師や薬剤師などの保健医療関係者は良質で,薬局などでもとても親身に相談に乗ってくれます。しかし近年,経済危機のあおりを受けて,健康保険による医療費還付が滞ったり,医療に携わる人員への賃金が滞納したり,病院や診療所などで一部物資や薬剤などが不足する事態に陥っています。緊急外来などは非常に長時間待たされる傾向にあります。また医学部卒業後の研修受け入れ機関が不足しているため,若手医師の海外流出の増加,さらには今般の財政緊縮策の一環で,公立病院に対しても一般公務員と同様に退職者10名につき1名を雇用する制度が導入され,医師や看護師の不足も問題になっています。
外務省: 世界の医療事情 ギリシャ(強調は引用者)

 全体のトーンを見る限り、今のところ、そこまで深刻ではない印象だが、影響を受けているのは間違いないようだ。


 このように多大な犠牲を払いながら実行した緊縮策だが、結果的に全く上手くいかなかったのは周知の通り。
 ギリシャ政府が抱える債務は右肩上がりで増え続けてきた。2012年にはやや減少しているが、それは、上述の第2次支援の際の債権放棄によるものだと思われる。それでも、高止まりしている。
 目標としている、GDPに対する債務の比率も上昇している。債務が減っていないだけでなく、GDPが減少してしまっているのだから、当然といえる。
ギリシャの政府債務残高の推移 - 世界経済のネタ帳


 そもそも論として、GDPが縮小してしまっている以上、問題の解決のしようがない。
 切り詰めることばかり考えて、稼ぐ能力を軽視していれば、いつまでも借金を返せないのは当然。自立できるわけがなく、いつまでも、経済的な支援が必要な状態が続く。
 切り詰めた結果、体力が弱まりすぎて収入が途絶えてしまえば、何にもならない。


 こうなることは当然予測されていたし、IMFも分かっていた。

財政再建については「進展している」と評価したが、歳出削減による政府支出の減少で実体経済については「予想通り減速している」とした。

ギリシャの財政再建、IMFが進展評価 「経済は減速」 :日本経済新聞

 ギリシャはきちんと財政再建に取り組み、その結果として(予想通り)、経済は大恐慌に陥っている。


 しかしIMFやEU(特にドイツ)は、これまでの方針を改めることはなく、さらなる緊縮を求めている。
 緊縮策が必要だとしても、経済をどう立て直すかという視点も持たなければ、意味が無いように思えるが。


 このような状況を背景に、チプラス政権や、国民投票による緊縮策への拒絶は生まれた。


 だが結局、ギリシャは緊縮策を受け入れているようだ。支援を得るために受け入れざるを得ないのだろうけど。
 例えば今月20日には、再び付加価値税が引き上げられている。
ギリシャが付加価値税引き上げ、レストランなど23%に | Reuters


 繰り返しになるが、「一方的に緊縮策を拒み、借金を踏み倒そうとする自分勝手なギリシャ」という、日本での報道のされ方は、かなりアンフェアなもののようだ。


 細かい内容がよく確認できないことも多かったので、知っている人がいたら、ソースと一緒に教えてください。

*1:これも日本に比べるとかなり悪いけど