正義と微笑

numb_86のブログ

イギリスのベテラン左翼、ジェレミー・コービン

 以前の記事に書いたように、ヨーロッパの政治状況、特に、EUや財政政策を巡る思想や潮流に、関心がある。
 上述の記事ではギリシャについて書いたが、今回は、イギリス。


 2015年5月に行われたイギリスの総選挙は、事前の予想を裏切り、保守党が大勝。
 労働党の党首であったエド・ミリバンドは、責任を取って辞任。次の党首を選ぶため、労働党は現在党首選を行っている。この戦いで大きな注目を集めているのが、ジェレミー・コービンである。というより、ジェレミー・コービンが台頭したことにより、党首選の行方に注目が集まるようになったと言っていいだろう。
 ジェレミー・コービンがいなければ、労働党の党首選がここまで注目を浴びることはなかったと思う。


 ではなぜ、ジェレミー・コービンが話題になっているのか。
 それは、彼の掲げる政策が、これまでのイギリス政治の主流からあまりにもかけ離れており、にも関わらず、多くの支持を集めているからである。


 1983年から労働党議員を務める大ベテランだが、政府入りの経験は一度もない。
 その理由は、彼の極端過ぎる政治思想と態度にある。

 労働党議員(のごく一部)によって構成される「社会主義キャンペーングループ」のメンバーであり、反核団体「核軍縮キャンペーン(CND)」の共同副会長の一人でもある。
 反戦活動にも積極的で、ブレア首相(労働党)が参戦を決めたイラク戦争にも反対。
 緊縮財政や公共投資削減に反対。
 王室廃止を主張。

 反戦反核、反緊縮、王室廃止と、非常に分かりやすい「左翼」である。
 そしてその主張が、決してブレない。
 自らの主張を守るため、これまで500回以上も労働党の指示に背いた投票行動を行っている。「最も経費を使わない国会議員」に選ばれたこともあるらしい。

参考:
左派候補の台頭で労働党の党首選に波乱(その1) : 英国政治ニュース
労働党の党首選で大本命となっている左派候補の政策 : 英国政治ニュース
意外な展開となった労働党党首選 | British Politics Today
アナキズム・イン・ザ・UK 第32回:ヨーロッパ・コーリング | ele-king


 極端で頑迷な左翼、といった印象だが、それゆえに今回の党首選でも、泡沫候補だと思われていた。

 党首選の最終候補に残るためには、労働党の下院議員の15%以上の推薦を得なければならない。ジェレミー・コービンが必要な推薦を集めたのは、締め切りギリギリ。しかも、推薦人のなかには、実際には彼を支持しておらず、党首選を盛り上げるために敢えて推薦したものも多かった。
参考:左派候補の台頭で労働党の党首選に波乱(その1) : 英国政治ニュース

 一応最終候補には残ったが、絶対に当選するはずのないイロモノ候補、それが彼の立ち位置のはずだった。


 しかし予想に反して、支持を集め始めている。

コービン氏は7月初め、最大労組ユナイトの支持を獲得したのに続き、29日には組合員130万人の公共部門労組ユニゾンからも「(投票先の)第1希望」に指名された。各労組の支持に拘束力はないものの、投票権を持つ組合員らの動向に影響を与えるのは必至。ユニゾンのプレンティス事務局長は「コービン氏のメッセージは、賃金凍結や解雇に苦しみ続けた公務員らの共感を得ている」と強調した。
時事ドットコム:党首選本命に「強硬左派」候補=有力労組が支持、党内動揺−英労働党

 他にも、交通労組RMTや鉄道運転士労組Asle、通信労組CWUがジェレミー・コービンへの支持を表明。
参考:
左派候補の台頭で労働党の党首選に波乱(その2) : 英国政治ニュース
労働党の党首選で大本命となっている左派候補の政策 : 英国政治ニュース


 泡沫候補のはずが、今では「本命」になってしまっている。
 恐らく、その際立った主張が、人々を惹きつけているのだろう。


 だがその異端さゆえに、彼を危険視する向きも多い。
 ブレア元首相を始めとする労働党幹部が彼を批判し、既にジェレミー・コービンへの協力を拒否している労働党議員も出てきた。
参考:
英国政治に嵐の予兆?:「Mr.マルキスト」が労働党首候補NO.1に(ブレイディみかこ) - 個人 - Yahoo!ニュース


 5月の総選挙で保守党に敗れてしまったのは、当時の党首であったエド・ミリバンドが「社会主義的」だと見なされ、政権担当能力が疑問視されたから。そもそも労働党は、中道路線を取ったことで躍進してきた。ブレア以降の「現実的」な中道路線、それこそが労働党の進むべき道なのだ。

 そう考える人たちにとって、ジェレミー・コービンが党首になるのは悪夢でしかない。中道左派どころか強硬な左翼である彼が党首になってしまえば、労働党はますます国民から見放されてしまう。

 そういう危機感があるからこそ、大御所たちも総出で、彼へのネガティブ・キャンペーンを行っている。


 しかし彼の支持者たちは、まったく逆の見方をする。

 労働党敗北の原因は、保守党との違いが無くなってしまったことにあるという。党としてのアイデンティティを失ってしまったのが問題だと考えている。
 保守党との違いを打ち出してこそ党勢は回復する、ジェレミー・コービンが支持を広げているのがその証拠である。としている。


 このように、彼への見方や評価は大きく割れているが、一部の人たちから強く支持されているのは事実であり、彼に支持が集まるような土壌がイギリスにあるのは間違いない。

参考:
アナキズム・イン・ザ・UK 第32回:ヨーロッパ・コーリング | ele-king
左派候補の台頭で労働党の党首選に波乱(その1) : 英国政治ニュース
労働党党首選での左派候補の善戦でパニック続く : 英国政治ニュース



 個人的には、彼が反緊縮を掲げていること、そしてそんな彼に支持が集まっていることに、関心がある。

 日本語の情報だけでは具体的な政策や主張はよく分からなかったが、公共投資削減に反対し、産業の国有化や、量的緩和の実行を主張しているらしく、間違いなく「反緊縮派」と言えるだろう。
 反緊縮民衆会議(THE PEOPLE'S ASSEMBLY AGAINST AUSTERITY)の主催するデモにも参加している。なお、この会議の構成団体にはユナイトやユニゾンがいるため、これらの労組がジェレミー・コービンを支持したのは、予想外でも何でもないように思える。
労働党の党首選で大本命となっている左派候補の政策 : 英国政治ニュース
alterglobe.net: 英国、反緊縮デモに10万人の人々(6月20日)


 現在欧州では、反緊縮を掲げるいくつかの政治勢力が台頭しており、ジェレミー・コービンもその一角に数えることが出来る。
 彼のより詳しい思想的背景はどんなものであるのか、そして、それが受け入れられ、より大きな存在感を持つようになるのか、非常に興味がある。
 党首選の結果は9月12日に発表される。

9月12日追記

 ジェレミー・コービンは党首選で圧勝し、新しい労働党の党首に選ばれた。
Jeremy Corbyn wins Labour leadership contest - BBC News


 「泡沫候補」であったはずのコービンが、なぜ勝利したのか。
 背景の一つに、キャメロン政権が進めている緊縮政策がある。他の候補者と異なり明確に「反緊縮」「積極財政」を唱えたことが、現政権に不満を持つ人たちの心を捉えたのだと思う。

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