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正義と微笑

numb_86のブログ

二大政党制を脅かすスペインの新興政党『ポデモス』

 来月(2015年12月)に総選挙が予定されているスペインで、ポデモスという新興政党が注目を集めている。

 2014年1月に結党され、今回初めて総選挙を戦う若い政党だが、大きな支持を集め、既存政党の脅威となっている。


 大学教授などが中心となって結党されたポデモスは、その当初から話題を集め、結党からわずか4ヶ月後の欧州議会議員選挙で5議席を獲得。現党首のパブロ・イグレシアスも、このとき当選している。

 このことで、さらに注目を集める。
 露出が増えたこともあり、その後も党勢を拡大し、2015年3月と5月の地方選挙でも躍進。
 マドリードバルセロナでは、ポデモスを含む左派の会派が多数派を形成し、市長の選出に成功した。


 最近は一時ほどの勢いはないが、総選挙でも既存政党を脅かすのではないかと注目されている。

参考:
時事ドットコム:首都に「反緊縮」市長=右派、四半世紀ぶり野党に−スペイン
スペイン:統一地方選、急進左派躍進 緊縮財政に反対 - 毎日新聞


EUが推進する緊縮財政に反対

 ポデモスの特徴の一つは、反緊縮を掲げていること。つまり、積極的な財政出動や予算拡大である。

 年金受給開始年齢の引き下げ、国庫負担による最低所得補償(ベーシック・インカム)、公的医療と教育の充実、基幹産業の国有化、など。

参考:スペインにおける「新自由主義の奇妙な不死」


 そのため、欧州委員会や欧州銀行が進める緊縮プログラムに反対する勢力、として紹介されることが多い。
 党首のイグレシアスは、「ドイツの植民地にはなりたくない」と発言したこともある。

参考:欧州二分するドイツの強大な影響力、ギリシャ危機で顕著に - WSJ


 資本主義における格差について研究し、去年世界的に話題になった経済学者トマ・ピケティも、ポデモスのアドバイザーに就任している。

 ちなみにピケティは、ジョセフ・スティグリッツと共に、イギリス労働党ジェレミー・コービンのアドバイザーにもなっており、反緊縮勢力の支援に熱心なようだ。

参考:
Thomas Piketty to advise Spain's anti-austerity party Podemos | World news | The Guardian
ピケティ氏とスティグリッツ氏、英労働党コービン新党首の経済顧問に 写真3枚 国際ニュース:AFPBB News


スペイン政界に蔓延する汚職

 ポデモスの躍進には、2つの背景がある。
 政治の硬直化がもたらした汚職と、緊縮政策の推進による経済の悪化である。
 
 
 スペインでは汚職が深刻な問題となっており、国民の関心が非常に高い。
 ラホイ首相にも、汚職疑惑が持ち上がったことがある。

参考:
スペイン基礎データ | 外務省
スペインTVE フランスF2 台頭する新政党「ポデモス」 - NHK BS1 キャッチ!世界の視点 特集まるごと
スペイン首相、企業献金から不正に資金受領との報道否定 | Reuters

 
 ここまで汚職が蔓延するようになってしまった背景には、政治の硬直化がある。
 
 スペインが現在のような議会制民主主義を成立させたのは、実は最近のことである。
 それまではフランシス・フランコによる独裁が続いていた。

 1939年、スペイン内戦に勝利したフランコは、独裁体制を敷く。

 第二次世界大戦には中立的な立場を取ったフランコ体制は戦後も生き延び、フランコが死去する1975年まで続いた。

 フランコの遺言で国王に即位したフアン・カルロス1世民主化を進め、1977年、41年ぶりに総選挙が行われる。
 翌1978年に現憲法が制定され、立憲君主制へと移行した。
 

 この1978年が、現代スペイン政治の一つの出発点である。

 そしてそれ以来、政権を担ってきたのが、現与党の国民党と、最大野党の社会労働党である。
 多少の離合集散はあったようだが、基本的にはこの2つの政党が、スペイン政治を30年以上担ってきた。典型的な二大政党制である。
 しかしそれが、政治の硬直化を生み、腐敗の温床になってしまったとされている。
 
 だからこそ、清廉なイメージで、既存政党との関係がないポデモスが、支持を集めることになった。

25%前後で高止まりする失業率

 ポデモスが支持されているもう一つの理由が、深刻な経済情勢である。

 1990年代後半から好景気が続いていたスペイン経済だが、2000年代前半には住宅バブルが発生していた。
 バブルが崩壊すると、世界的な金融危機の影響もあり、2009年はマイナス成長となる。

 減税などの効果で2010年はプラス成長となったが、翌年からは再びマイナス成長


 不況による税収減や財政出動などの要因で、スペインの財政は2009年頃から急激に悪化する。
 近年は改善傾向にあるが、まだまだ大幅な財政赤字が続いており、債務残高も右肩上がりとなっている。
 イタリアやポルトガルなどの他の南欧諸国と共に、その財政が問題視されている。


 失業率も、2008年から急上昇。

 もっとも、ここ30年で一番低いのが8%台であり、日本の感覚からすれば高水準が常態化していたようだが。
 しかしそれがさらに悪化し、2013年には26.10%となる。

 15歳~24歳の若年層の失業率は更に深刻で、2010年の時点で41.6%。
 最近の調査では、25歳未満の失業率はEU最高の54%に達するという。
 全体の失業率が2010年より悪化しているのだから、若年層の失業率も悪化しているのは間違いないだろう。

参考:
スペイン、イギリスから見た欧州マクロ経済
ギリシャだけじゃない! 欧州で極左が大躍進 | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト


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出典:世界経済のネタ帳


機能不全に陥る二大政党制

 このような絶望的な経済状況が、ポデモスのような新興政党への支持に結びついていることは想像に難くない。

 だが、ポデモス躍進という文脈で重要なのは、この不況が人災という側面を持っているように見えることだ。


 経済の急激な悪化という事態に際し、スペイン政府は、緊縮政策を推進することで乗り切ろうとした。
 国民党も、社会労働党も、である。
 国家予算を縮小し、政府による関与を減らし、自由競争を促すことで、財政収支は改善し、競争力が生まれ、経済は回復するとされた。「痛みを伴う」ことにはなるが、必要な改革だとされた。


 まず、2007年の住宅バブル崩壊時の、社会労働党サパテロ政権。

 付加価値税所得税増税
 公務員の給与カット、公共投資の削減、出産補助金の廃止、などの歳出削減
 このような典型的な緊縮財政を行った。


 労働問題にも手を打った。

 スペインの労働問題の根幹は、正規雇用非正規雇用の、二重構造である。
 両者の格差が大きく、労働者全体における非正規雇用の割合が大きい。
 特に若年層は非正規雇用が多いため、不況になると真っ先に首を切られ、失業率が跳ね上がるという構図である。

 この状況を変えるためにサパテロ政権が採用した手段が、労働市場の自由化、柔軟化である。

 正規雇用に対する解雇補償金の引き下げ、レイオフ(一時解雇)の許可、などを進めた。その一方で、臨時雇用を有期にし、その後は正社員にすることを義務付けた。

 そうすることで雇用の流動性を高め、それによる企業の生産性向上を目指した。

参考:スペイン、イギリスから見た欧州マクロ経済


 これらの施策は財政赤字の削減には一定の効果があったとされるが、景気回復には程遠く、サパテロ政権は支持を失っていった。


 そして2011年12月、政権交代が起こり、国民党のラホイ政権が誕生する。

参考:スペインで政権交代へ、経済悪化に不満高まり与党が歴史的大敗 | Reuters


 しかしラホイ政権も、当初から緊縮財政の推進を訴えており、むしろ社会労働党よりさらに急進的な緊縮策を実行していった。


 2012年に発生した金融危機も、緊縮財政を後押しした。

 2012年5月、大手金融機関が政府に支援を求め、一部国有化された。
 金融不安が高まるなか、6月、スペイン政府はEUに支援を求める。
 このことによりスペイン政府は、これまで以上に財政赤字削減を迫られることになる。
 なお、EUからスペインへの支援は、2014年1月に終了している。


 ラホイ政権は財政再建を至上命題とし、付加価値税のさらなる引き上げや、失業給付削減などの緊縮策を実行していった。


 労働市場の柔軟化も進め、2012年、抜本的な制度改革が行われる。
 解雇規制の緩和と共に、税制などによる正規雇用の促進、職業訓練の強化などを行った。
 就労も解雇も容易にすることで、労働市場への人の出入りを促そうとした。
 また、労働組合の影響力も低下させ、柔軟な労使関係を目指した。

参考:
スペイン銀行再編基金、3日にもバンキアへの資本注入承認 | Reuters
欧州債務危機をめぐる動き
スペインにおける「新自由主義の奇妙な不死」


 以上のような典型的な緊縮財政、規制緩和路線を進めたラホイ政権であったが、国民からの評価は高いとは言えない。
 最近の数字を見る限り、ようやく失業率や経済成長率が改善し始めたようには見える。
 ただ、失業率は依然として高い水準であるし、財政再建も途上である。

参考:
スペインの経済成長率の推移 - 世界経済のネタ帳
スペインの政府債務残高の推移 - 世界経済のネタ帳
スペインの財政収支の推移 - 世界経済のネタ帳
スペイン首相、続投に逆風 緊縮策に理解進まず :日本経済新聞


 ラホイ政権は「改革」の成果を強調するが、緊縮政策に反対する声は根強くある。

 問題は、その声を汲み取る政党が存在しなかったことだ。
 国民党と社会労働党がそろって緊縮策を打ち出しているため、反緊縮の声の行き場がない。

 二大政党の政策が似通ってしまったことで、二大政党制が機能不全に陥り、国民に選択肢が無くなっていた。

 だからこそ、正面から反緊縮を訴え、新しい選択肢を提示したポデモスが、一部から熱狂的に支持を受けたのだ。
 現在のスペインの苦境は緊縮財政による人災だと思っている人たちの、受け皿となった。


 ポデモスはもともと、二大政党に嫌悪している人たちのオルタナティブとなり、二大政党制に風穴を開けるために結成された。
 新しい政策を示し、そして、体制を刷新して腐敗を取り除くことを、目的としている。
 その戦略やビジョンは、今のところ上手くいっているようだ。

イギリスやギリシャとの類似点

 ポデモス、そしてスペインについて調べていると、イギリスギリシャの状況に非常に似ていることに気付く。


 スペイン、イギリス、ギリシャでは、政権与党によって緊縮財政が実行された。
 いずれのケースでも、「必要な痛み」「痛みを伴う改革が不可避」ということが説明された。
 そして国民の多くは当初、それを受け入れた。

 しかし何年経っても期待されたような「成果」や「果実」は手に入らず、痛みが増すばかりであった。少なくとも、痛みに見合う結果は得られていない、というのが民衆の感覚であった。

 そのような状況で、ジェレミー・コービンやシリザ、ポデモスといった反緊縮勢力が各国で台頭していった。


 欧州委員会や国際機関からの圧力、という点ではギリシャと似ている。

 ギリシャがEUやIMFから圧力を受けており、それにより緊縮策を余儀なくされていることは知られているが、スペインも似たような状況にある。

 2009年4月の時点で、欧州委員会から、過剰財政赤字の是正勧告を受けている。
 IMFからも、財政再建、金融セクターの改革、労働市場改革、などと色々と注文を受けている。

 EUから金融支援を受けた以降は、その代償として、それまで以上に欧州委員会に口を出されるようになった。
 上述の労働政策にも、EUからの圧力が影響を及ぼしている。

参考:
スペイン、イギリスから見た欧州マクロ経済
欧州債務危機をめぐる動き
スペインにおける「新自由主義の奇妙な不死」


 そして、二大政党間の政策に差異が無くなったことで民衆が不満を抱えていったのは、イギリスと共通の現象。
 左派(労働党社会労働党)が右派(保守党、国民党)の政策に近づいたことで、左派の受け皿がなくなった、というのも共通している。

勢いには陰りも

 破竹の勢い、といってもいいポデモスだったが、最近は勢いに陰りが見られる。

 2015年9月の世論調査では、ポデモスの支持率はピーク時の半分ほどだという。


 理由としては、景気回復、シリザの迷走、理想と現実の板挟み、の3つが挙げられる。


 先ほど少し触れたように、長い間低迷していたスペイン経済は、最近になってようやく回復の兆しを見せつつある。
 それが政権与党である国民党の支持回復につながっており、結果的に、ポデモスは支持を落としつつある。


 シリザの迷走も影響を与えている。

 ポデモスと近い政策を掲げていたギリシャのシリザだったが、政権奪取後、ドイツなどの強い圧力もあり、政策を撤回した。状況は流動的だが、反緊縮という看板は取り下げたように見える。

 これにより、同様の政策を掲げ、シリザと緊密に連携してきたポデモスへの風当たりも厳しくなった。
 シリザの迷走を目の当たりにし、ポデモスに対してもその実行力に疑問符がつけられるようになったのだ。

 シリザの事例が、ヨーロッパの反緊縮勢力に対する信用を失わせている、と言えるかもしれない。


 そして、ポデモス自体もまた、シリザと同じ難問に直面している。
 組織の拡大や地方選挙での勝利によって実務に携わることになったため、理想と現実の板挟みに苦しむようになった。

 政権獲得が現実味を帯びてくると、これまでよりトーンを落とし、「我々は現実的な判断が出来ます」とアピールしなければならない。しかしそうすれば、従来の支持者が離れるリスクがある。このジレンマに、ポデモスも直面しつつある。

 例えば、ベーシック・インカムについては「公的予算の状況が許す場合のみ実施する」とトーンダウンしている。

 同様の現象は、イギリス労働党党首となったコービンにも見られる。

参考:
欧州の反緊縮派はいま――ギリシャ首相辞任後、苦境に立たされるスペインの反緊縮政党
焦点:欧州で失せるギリシャへの共感、「チプラス流」に幻滅も | ワールド | ニュース速報 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト
左翼が大政党を率いるのはムリなのか?:ジェレミー・コービンの苦悩(ブレイディみかこ) - 個人 - Yahoo!ニュース


 このような状況下で、ポデモスが総選挙でどこまで議席を獲得できるかは不透明だ。
 そして、何らかの形で国政に関与できるようになったとしても、従来の主張を貫けるかどうかは分からない。
 
 ただ、緊縮政策をめぐる対立は普遍的な現象であり、欧州政治やEUの在り方について考えるうえで重要なテーマである。
 単なる個別の政策論争という枠を超えており、もっと大きな視座から扱うべき問題に思える。
 ポデモスはその象徴の一つであり、12月の総選挙の結果は、欧州全体の政治経済に少なからず影響を与えるだろう。