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正義と微笑

numb_86のブログ

藤本徹『シリアスゲーム 教育・社会に役立つデジタルゲーム』東京電機大学出版局

 ありがたいことに、欲しいものリストから送ってもらった。安価な本ではないのにありがたいです。

 シリアスゲームについての、恐らく日本で唯一の入門書。

 2007年出版なので少し古いが、現状の整理や分析が優れており、執筆時点での事例紹介も勉強になった。

 その一方で、今後の展望に関する記述はどれも上滑りしているというか、シリアスゲームを持ち上げすぎているように感じた。期待を込めて敢えてそうしたのだとは思うが、もう少し丁寧な展望を読みたかった。

 とはいえ基本的には、丁寧に論じられている。
 「ゲームのちから」に関するテキストは、安易にゲームを持ち上げ、可能性ばかり語って課題や難点から目を背ける傾向があるが、本書は違う。
 シリアスゲームの可能性だけでなく課題についても、分かりやすく示している。

 とにかくゲームっぽくすればいい、というものではなく、それでは失敗する。
 そしてそういう態度を続けていれば、シリアスゲーム全体の将来にとってもマイナスになる。
 過剰な期待は必ず裏切られ、それによる反動で誤解や失望が広がってしまう。「シリアスゲーム」という言葉に悪いイメージがついてまわることになる。

 本書で紹介されている「チョコレートで包んだブロッコリー」という例えは秀逸だと思った。
 シリアスゲームの失敗例を言い表しており、チョコレートはゲーム、ブロッコリーは学習内容である。
 子供はチョコレートが好きなんだからチョコをまぶせば何でも食べられるはずだ、という安易な発想でブロッコリーをチョコで包んでも、上手くいくはずがない。バラバラに食べたほうがよっぽどマシである。

 面白いゲーム、効果的なゲームにすることが大切であり、そのためのゲームデザインが重要であると、本書でも繰り返し指摘されている。

 シリアスゲームをデザインする上で重要となる要素の一つが、分かりやすさと正確さのトレードオフである。
 これは一般のゲームでも問題となるが、シリアスゲームでは特に重要となる。

 教育や啓発のためには正確性が重要になるが、それにウェイトを置き過ぎると、ゲームとしての分かりやすさや面白さが損なわれてしまう。
 それではゲームにする意味が無くなってしまうが、かといって分かりやすさや面白さのために正確性を犠牲にすれば、教育や啓発という本来の目的の達成が難しくなる。

 そのバランスを、どうやって、どの程度、取っていくのか。シリアスゲームを成功させるためにはこの課題をクリアする必要がある。

 これに関連して、バイアス、というのも問題になる。
 ゲームを作るとき、そこには必ず、制作者の意図や主観が反映される。
 現実をそのままコピーすることは出来ないし、また望ましくもない以上、何らかの「簡略化」や「切り取り」が発生する。
 そのゲームのなかで、何を主に描くのか。どこにフォーカスを当てるのか。何をどれくらい丁寧に扱うのか。逆に、何を扱わず、何を簡略化するのか。そこに、制作者の意図が反映されてくる。

 制作するシリアスゲームの目的(教育目的)を達成するにはどういうバランスにすればいいのか、よく考えてデザインしないといけない。
 ここらへんの問題意識に無頓着だと、多くの場合、ゲームとしても教材としても低品質なものが出来上がるだろう。

 また、制作者によってわざと歪んだバイアスがかけられたゲームにも問題がある。シリアスゲームがプロパガンダに使われてしまう。

 ちょうど最近、これの実例があった。
 財務省が公開した、財政問題をテーマにしたゲーム。
 本書の著者がこの件についてブログを書いているので、詳細はそちらを参照して欲しい。
「財政健全化」をテーマにした日米シリアスゲーム比較 | Anotherway

 要は、制作者やスポンサー(今回のケースでは財務省)にとって都合のいいように、まるで出鱈目にゲームが作られているということだ。
 ネット上で散々叩かれているが、財務省にとって都合の悪い事象や概要は、露骨に省かれてしまっている。

 例えば、公務員削減を実行することは出来ないし、「減税によって景気が上向き税収が増える」というシナリオは「存在しない」ことになっている。
 「社会保障費を削減し、税金を上げる」が、前提になっており、それありきでゲームが作られている。フェアではないし、本当にただのプロパガンダにしかなっていない。

 もっともこのゲームは、「とにかく社会保障費を削りたい、ガンガン増税したい。その方向に世論を誘導したい」という財務省の意図があからさまであり、プロパガンダとしてもひどい出来なのだが。

 本書には、斬新な視点や深い考察は出てこないので、そういったものを期待していると肩透かしを食う。
 当たり前のことをしっかりと論じている入門書、という感じで、議論を整理したり、概要を掴むための本だと思う。

シリアスゲーム―教育・社会に役立つデジタルゲーム

シリアスゲーム―教育・社会に役立つデジタルゲーム